第13回 藤さんの食と旅と人と~エジプト-喧騒から古代ロマンの旅-後編~

翌日の始まりは、コッペパン2つにマーガリンとチーズ、バナナにゆで卵、インスタントの紅茶という質素な朝食から。背の低いくたびれたジャージを履いた中年男が手慣れた手つきで盛りつけたプレートをテーブルまで運んできてくれる。きっとこの人は毎日ここでこの朝ごはんを作っているのかと思うと少し気が遠くなってきた。考えてみると、人間の日常なんて彼の毎日のルーティーンとそう変わるものではないね。

迎えの車が来てカイロ考古学博物館に到着すると朝の9時前というのに入り口付近はもう人ごみでごった返している。向こうの方でガイドのドアイさんが笑顔で手を振る。相変わらず素敵な笑顔だ。入場券を買ってピンク色の壁が印象的な博物館に入る。館内ではお腹いっぱいになるくらい、所狭しと遺跡が展示されている。展示というよりは保管という感じのものもある。

その中でも特別の展示はツタンカーメン。この一室だけは撮影禁止となっている。
薄暗い部屋に入っていくと部屋の中央部にケースでしっかりと囲われた、ツタンカーメンの黄金のマスクが荘厳な輝きを放っている。透き通るように遠くを見据える瞳。完璧なバランスの端正な顔立ち。傍で見ていた日本人の若い二人連れの女性が「ずっと見ていられるね」と言っていたが、まさしくそう思った。ずっと見ていられる、ずっと見てていたい。
ツタンカーメン王は、忘れられた王といわれるほど存在感が薄かったようだが、それが功を奏して、盗掘されることもなく美しい遺物がそのまま残っていた奇跡のたまものだ。 そのほかには、ピラミッド建設を命じた、クフ王、カウラー王、メンカウラー王の像も展示されている。笑ってしまいそうになったのは、クフ王の像は高さ10cmくらいの小さなもので、どうやらこれしか残っていないということだった。

カイロ考古学博物館を見終えた後はエジプト料理のビュッフェレストランでの昼食。なんだかエジプト料理のパターンもわかってきた。気をつけないと食べ過ぎる。

続いては、グランドオープンを間近に控えた、大エジプト博物館へ。びっくりするほど大きな真新しい建物のエントランスを入ると、エジプトの建設王・ラムレス2世の巨大な像が出迎えてくれる。ゆくゆくはカイロ考古学博物館の展示物もここに集められるそうだ。博物館建設に当たっては日本の技術も導入されたとのことで誇らしい気持ちになる。間近にはピラミッドも見えて、なんだか得をしたような気になる。

一通り見学した後は、文明博物館へ移動。ここは20体くらいのミイラが安置されている。髪の毛がしっかり残っていて、ほんのりと表情さえ感じる姿を見て、彼らの永遠の生への執着や憧れを感じた。

というわけで、3大博物館をすべて制覇したあとは、ナイル川のナイトクルーズ。
ここでようやくビールにありつく。エジプトにも地場のビールがあるのだ。
川岸の景色は華やかというよりもどこか寂しいような切ない気分になる。

こうして、今日もよく歩いた一日が終わった。

最終日は、朝から例の朝食を食べてから、カイロ市内のイスラムのモスク巡り。ガイドのオドワさんも3日目ともなればすっかりリラックスして楽しく会話が弾む。(ちなみに旅行から3か月後、オドワさんは晴れてつきあっていた彼氏と婚約したそうで嬉しそうな写真付きのLINEが届いた。)午後にカイロ空港でお別れ。オドアさんは変わらぬ優しいまなざしで手を振ってくれた。
今回のエジプト旅行は、長年蓄積してきた「一生に一回は行きたい」という思いを成し遂げるための旅でもあったが、僕にはエジプトで見た、ツタンカーメンやスフィンクスをはじめとする遺跡の顔の表情がとても穏やかだったことが印象に残った。あとで調べてみたのだが、ピラミッド建設についても厳しい奴隷制のもとで労働させられたのではなく、厚待遇で雇用されていたとか。古代エジプト文明は実に民主的であたたかい社会であったことが実感できた。喧噪と歴史の街エジプト・カイロにはそういった伝統が息づいているように思った。

おわり

執筆:藤さん
   ビジネスマンとして世界各国への出張を30年以上続けながら、趣味の旅行でもあちこちに出かける好奇心旺盛なアラ還男子。
   山本代表の長年の友人で、ぼちぼちと旅のコラムをおもびよのブログで書いています。