第2回 藤さんの旅と食と人と~青森・鯵ヶ沢のヒラメ漬け丼と白神ブルー~

関西人である私にとって、東北地方はある意味でハワイよりも距離が遠い場所でした。
でもここ数年はフリークのように毎年、東北の色々な場所を訪れています。
人生50年以上生きてくると、初めて見るもの、初めて食べるものが少なくなるわけですが、東北にはそれがあります。

青森県・鯵ヶ沢。

この地名に馴染みのある方はそれほど多くはないかもしれません。
舞の海関の出身地であり、ブサカワ犬・わさおがいた町と言えば少しは親しみがわきませんか。
青森市内からレンタカーで、約1時間半。津軽半島の根元、五所川原を抜けて日本海側に横断したところに、鯵ヶ沢があります。
海沿いに走るJR五能線との並走は気持ちよいドライブです。

  さて、鯵ヶ沢名物といえば、ヒラメ漬け丼ということで、早速ガイドブックを見ながらよさげな一軒の店に狙いを定めました。
ところが駐車場は満杯でお店の前に長い行列が見えたのであえなく退散しました。次の店を探すもやはり同じ状況。
ゴールデンウイーク真っただ中の影響に違いない。
覚悟を決めた私は、かろうじて駐車場に車が停められた、海を見ながら食事ができるという「汐風ドライブイン」で行列に並びました。

そのとき12時30分過ぎ。
そして席まで通されるまでなんと約2時間かかりました。
普段であればラーメン屋で15分待つのも嫌なのですが、ここでは仕方がない。ぐっと怒りをこらえました。
さらに注文してから漬け丼が到着した時には、もう 3時を回っていました。
これでまずかったら、さすがに鯵ヶ沢許すまじの怒り爆発前の火山のような心境でした。

どんぶりいっぱいに豪快に並べられたた茶褐色のヒラメを一枚ご飯と一緒にお箸で持ち上げ頂きます。

 「うわっ、何これ?知らない味だ」

 醤油の辛みのあとに、ヒラメの甘味が膨らむ。それは淡白とはまた違うひかえ目だけど豊かなまろやかさでした。
むしろ3時間かかってここまでたどり着いた幸せをしみじみ感じた瞬間。

 翌日はさらに秋田方面へ下っていき、世界遺産・白山山地の麓での湖巡りをしました。
ブナ林を抜けて、早朝の清廉な木漏れ日浴びて、真っ青な姿を見せる青池の水面を前にして、しばし呆然とたたずむ。

何もかも忘れ、日頃の己の煩悩までも吸い込まれるようなブルー。
また新発見に驚き続けた旅でした。まだまだ私には東北熱は冷めないような気がします。